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匠を訪ねて

世界に誇るべき日本の伝統文化の発展に寄与し、〈伝統×イノベーション〉を実現する匠を表彰する賞として、三井広報委員会が2015年に創設した「三井ゴールデン匠賞」。
その受賞者を三井グループ各社の社員が訪ね、取り組みや伝統工芸への想いを聞きます。
第1回となる今回、伝統技術と最先端の空間デザインを結びつける伝統技術ディレクター・立川裕大さんにお話を伺いました。

立川 裕大

1965年長崎県生まれ。数多くの伝統技術を有する職人と建築家やインテリアデザイナーの間を取り持ち、空間に応じた家具・照明器具・アートオブジェなどを別注で製作するプロジェクト「ubushina」を実践し、伝統技術の領域を拡張している。
東京スカイツリー、八芳園、パレスホテル東京、CLASKA、伊勢丹新宿店など実績多数。また長年にわたり高岡市の鋳物メーカー「能作」のブランディングディレクションも手掛けている。
伝統的手仕事と現代のデザインを結び付けながら、日本各地の伝統技術の活動領域を最新のインテリアデザインの世界に拡張させたプロジェクトなどの取り組みなどが評価され、受賞。

「ubushina(産品)」
プロジェクト作品紹介

東京スカイツリー
©Nacasa & Partners Inc.

八芳園 槐樹
©Nacasa & Partners Inc.

「ubushina」プロジェクトは、「インテリア×伝統技術」によるインテリアのオートクチュール。家具・什器・照明器具・アートワーク・内装材などのインテリアエレメントを、伝統技術や先端技術、複数素材や技術の組み合わせを用いて求められる理想のプロダクトを実現する、フルオーダーのものづくりを行う。

伝統工芸は日本のエンジン

第1回「三井ゴールデン匠賞」を受賞された感想をお聞かせください。

私は、インテリアの分野における”伝統技術ディレクター“として、建築家・インテリアデザイナーからの要望を具現化することができる最適な伝統技術の職人を選定し、協働しながら、求められるプロダクトを実現しています。言ってみれば、伝統技術の”ハードウエア“と、建築家・デザイナーの”ソフトウエア“をつなぐ”ミドルウエア“的な存在として、職人の価値を最大限に引き出し新たな価値を創造するのが仕事。三井ゴールデン匠賞では、ミドルウエア的な人材にもフォーカスを当て評価していただけたことが、この賞の新しさであり、私の喜びでもあります。ありがとうございます。この賞が、日本の伝統技術にとって、未来、そして世界への架け橋となることを願うとともに、三井との協業の可能性に期待を寄せています。

日本の伝統工芸の強みと課題は何だと思いますか。

日本には、数多くの優れた職人がいます。その種類は世界一ではないでしょうか。彼らは、新たなものづくりに挑戦することに対して無上の喜びを感じています。さらにそのクオリティや、自分が創り出すものに対して、納期を含め責任・モラルが非常に高い。これも世界一といえるでしょう。
課題は、こうした素晴らしい職人が居ながらも、彼らに新たな挑戦の機会が与えられないこと。そして、彼らを引っ張り出し、存分に能力を発揮できる環境を作る、私たちのような中間層の人材が極端に少ないことだと認識しています。

立川さんの「ものづくり」に対する想いを教えてください。

私は、社会や文化に軸足を置いたデザインを志し仕事をしてきたなかで、日本各地に息づく多彩な素材や技術、それを生み出す職人たちとのネットワークを構築してきました。このネットワークを活かし、新たなものづくりに挑戦する機会を職人のみなさんに提供しています。また、彼らと一緒に創意工夫を重ねながら、クオリティはもちろん、コスト・スケジュール管理までのすべての工程をマネジメントしています。職人をプロデュースできる中間層の人材をもっと増やし、職人が創作に没頭できるような”生態系“を作ること―それが私の理想ですね。
私たちのものづくりは、「伝統技術を使っているからすごい」のではありません。「一目で見る人の心をとらえ」たものが、「よくよく見ると実はそこに伝統技術が使われていた」というくらいで丁度いいと考えています。ですから、一見してハッとするほどに未来を感じさせるような価値を加えたい。さらに、それは美しくなければならない。そういうものづくりをしていきたいと思っています。

伝統工芸の可能性についてどのようにお考えでしょうか。

社会が成熟度を増すほど、人はそれぞれのアイデンティティに回帰していくような「ルーツコンシャス」になっていくと思います。私たちの取り組みのプロジェクト名「ubushina(産品)」も、「産土(うぶすな)=その人が生まれた場所」というアイデンティティを象徴する古語を由来とし、その人、その土地にしかできないことを大切にして、多様性を尊重しています。
人がルーツコンシャスになるなかで、「日本らしさ」というのは、大きな意味を持ち、武器になる。特に、東京オリンピックを控えたこれからは、世界に負けないコンテンツになり得ると考えています。先人の知性と、資源や素材などの授かりものの集積であり、まさに「日本らしさ」そのものともいえる伝統工芸は、成熟社会の閉塞感を打ち破り、日本をポジティブに起動するエンジンになり得ると確信しています。 それは同時に、私自身を突き動かすエンジンでもあります。今後は、伝統工芸に「モダンアート」と、日本発の「スーパーブランド」という切り口で新たな価値を創造すべく、挑戦を続けていきます。

(2016年5月23日インタビュー)