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第2回「三井ゴールデン匠賞」グランプリ受賞者 特別インタビュー

第2回「三井ゴールデン匠賞」グランプリを受賞した桐本泰一さんに、贈賞式直後の感想をうかがいました。
(2018年3月20日インタビュー)

「オンリーワンを目指して、これまで以上に頑張らなければいけないという新しい目標をいただきました」

まずは、グランプリおめでとうございます。あらためて受賞の感想をお聞かせください。
桐本
本当にうれしく思います。自分自身を信じて努力してきましたが、周囲からのいろいろな逆風もあるなかで、自分がやっていることが本当に正しいのか、おかしいことなのかもしれないと思ったこともありました。ですから、こうして評価していただけたことは、本当にうれしい。ありがとうございました。
桐本さんは第1回に引き続き今回もご応募いただいておりますが、応募への想いをお聞かせください。
桐本
審査基準の5項目である「技術・技能」「独自性」「有用性」「持続性」「国際性」を拝見したとき、私たちの取り組みに合致するものがある、と感じました。伝統工芸には、作品に焦点を当てた賞は多くありますが、三井ゴールデン匠賞は人にフォーカスしてるところがとてもユニークです。このような賞はほかにはなく、私たちの想いを聞いてくれると思ったのが応募のきっかけでした。
第2回受賞者も、第1回受賞者を見渡しても、その5項目にしっかり応えられる方々がそろっている。私は、三井ゴールデン匠賞の審査基準が自分たちの足りないところを教えてくれるガイドラインになると思っています。伝統工芸だけでなく、いろいろなことに視野を広げて勉強していかないと、あの5項目には応えられない。伝統工芸に携わる者の羅針盤のような賞だと思っています。
桐本さんが実践してきた一貫生産の実現や蒔地技法(「作品紹介参照」)の開発など、新たな取り組みへの原動力となったものは何でしょうか?
桐本
私自身、とても負けず嫌いな性格で、壁が高く大きいほど、なんとか乗り越えてやろうという気持ちでやってきました。 桐本家は200年以上前から漆器づくりに携わり、5代目からは木地業(木材から器等を削り出す工程)を生業としてやってきました。分業主流の輪島塗の作業では、表舞台には出ない裏方の仕事です。私は大学で工業デザインを学んだ後、4年半ほど木地師の修行を積みましたが、木地づくりだけでなく、漆塗りまで同じ工房で行う一貫生産をして、販売まで手がけようと地元にギャラリーをつくりました。ただの裏方から脱却しなければいけない。オンリーワンの存在を目指さなければいけないと考えたのです。
当然、反動はありました。木地の仕事が半分近くまで激減し、職人たちもいるなかで、うちも7代目の私で終わりになるのではという危機感を覚えたこともあります。そうした大きな壁を乗り越え、低迷する伝統工芸のためには本当の魅力、本物の魅力、オンリーワンの魅力をもっともっと多くの人に知ってもらいたいという強い想いでやってこられたのだと思います。
「伝統」「歴史」を受け継ぐとともに「イノベーション」していくために、大切なことは何だとお考えですか?
桐本
まず地域を知ることだと思います。自分たちの足元をしっかり確認すること。何が素晴らしいかを感じることで素材が見えてきたり、人が見えてきたりします。それらをどうつないで、協力していくかを考えていくと新しいことが広がっていきます。そして、何よりお客様の声をしっかり聞くということ、そして知識と経験と体験−−これらが大切なのだと思います。
私は「好きこそものの上手なれ」という言葉が大好きなのですが、その「好き」を見つけることが大切だと思っています。どんな仕事でも同じですよね。好きだから頑張れる、突き詰められる。その先に、新しい技法や使い方が生まれていくのではないでしょうか。今の伝統工芸の世界は、そういう流れが生まれてきているような気がしています。
2020年に向けて外国からの注目も高まるなか、伝統工芸への影響はどうなっていくと思われますか?
桐本

キリモトでは家具や建築内装材なども手がけていますが、ここ数年、ホテルやレストランなどの商業空間づくりに携わる機会が多くなっています。日本の伝統工芸が外国の方の目に触れるという意味で、これまで以上に積極的に取り組んでいかなければいけない。また、そういった取り組みを海外でも展開していくべきだと思います。
そして2020年以降にも目を向けておく必要があります。大きなビジネスチャンスだけでなく、もっと身近な、例えば住空間にもしっかり目を向けてイノベーションを生み出す。地域も年齢も分野も超えて、力を合わせていろいろな連携を育てて新しいことに取り組んでいくことで、日本の伝統工芸は再生できるはずだと考えています。みんなで連携して世界のオンリーワンを目指せばきっとできる−−そのためにも、この三井ゴールデン匠賞の役割はとても大きいものだと感じています。

経営者として日頃から意識していることは何ですか?
桐本
まだまだ苦境が続く業界ですが、私が常に意識しているのは、携わる人たちの生活を安定させるということです。職人の給料も上げてやりたい。休みもちゃんと取ってもらいたい。そうしたことと並行しながら、新しいことの開発や人との交流、いろいろな挑戦を続けていきたいと考えています。
若手の育成にも注力されていますが、伝統を次代につなげていくために必要なものは何だと思われますか?
桐本
私は、若い人たちと創作勉強会をするのがとても楽しいんです。私自身楽しんでいるし、それを正直に「楽しい」としっかり伝える。自分のやっていることも見てもらう。そうすると、無理やり教え込まなくても、おもしろいと思った人はちゃんと頑張る。そういう刺激を与えてあげることだと思うんです。「好きこそものの上手なれ」のきっかけを与えてあげるということですね。
今後の目標や抱負を教えてください。
桐本
今日は、この会場に息子も連れてきています。三井ゴールデン匠賞の受賞者はいずれも地道に努力を続けてこられた人たちですが、そうした人たちと会わせたかったという気持ちがあります。
つながりはとても大切です。私はこれからも技術を、人をつなげていきたい。地元にも志を同じくする仲間たちがいます。今回、グランプリをいただいて、彼らともこれまでとは違った活動ができるのではと思っております。今以上に頑張らなければいけない。そんな新しい目標をいただいた気持ちです。本当にありがとうございました。

作品紹介蒔絵・千すじ/小福皿

和洋兼用の皿。表面の硬度が高く、金属のカトラリーも使える人気シリーズ。蒔地技法とは、天然木の木地に布着せ補強して、珪藻土を焼成粉末にした「輪島地の粉」を活かした下地を塗り込み、何度も漆を塗り重ねる技法。

ぐい呑み・あなた・本朱、ぐい呑み・わたし・黒、珠型片口・本朱

贈賞式に同行のご子息・滉平さんと。「つなげていきたいですね」と桐本さん