

一番近いところでは家族が喜んでくれました。また、賞の名前に「三井」が付いていることで、工芸の世界を知らない一般の方まで「すごいね!」と褒めてくださったんです。公募展で受賞したときにはなかった反響で、とてもうれしいです。
それから、業界の中では特に伝統工芸士の方たち、いわゆる作家さんではなく職人さんたちがとても喜んでくれました。私はふだん、九谷焼の作家として扱われることが多いですが、今回の応募では、あえて「作家」ではなく「職人」というカテゴリーでエントリーしました。現場にいると、作家さんが職人さんを少し下に見てしまったり、職人さんは作家さんに遠慮してしまったりという場面を感じることがあるのですが、良い作品を生み出す中で、作家と職人の区別は必要ないと思っています。そんな私の気持ちを汲んでくれる同業者も多くて、その方たちが受賞を喜んでくれたことも大変うれしかったです。
陶芸は、他の工芸に比べるととても間口が広くて、粘土をいじったり、ろくろを回したり、絵を描いたり、釉薬をかけたり、それぞれだけでも作品になる。その分、星の数ほどたくさんの作り手がいますから、目立たないと埋もれてしまいます。そこで、大学(東京藝大)を出て最初に取り組んだのが、
ところが、ある程度、作品的にも技術的にも評価をいただけるようになる中で、ある日、ふと空しくなったんです。自分は石川県で育ち、父(真生窯・宮本忠夫氏)が九谷焼をやっている。なぜ、その息子が自分のルーツや環境とは違った作品を作っているのだろう、と。以前は何か新しいものを作ろうとしたとき、着想は外から持ってきていましたが、そのアイデアやヒントは、実はうちの仕事や九谷焼の歴史の中にこそあると気付いたんです。よくよく父の仕事を見てみると、あれほど緻密な仕事や緑・紫・紺青・黄・赤のきれいな原色五彩は国内にも世界にもないですし、これを使わない手はないな、と。それ以来、ガラッと変わって、素直に地元や土着のものを認めることができて、とことん産地性にこだわったものを作るようになりました。
ハンドメイドの講座や通信教育を行う会社から「本格的で伝統的な九谷焼の絵付けの講座をしたい」と依頼がありました。九谷焼って手間のかかる面倒な技法ですから、本当にそんなニーズがあるのか疑問もあったのですが、ここを拠点にすることで、九谷焼の良さや楽しさを都市部に発信できるという想いで引き受けました。地元から道具や絵具をはじめ、「現場」をそのまま持ち込んで見せるようにしたのですが、大変な人気で、そのほとんどが女性でした。しかも、生徒さんが知識や技法を身に付けていく中で、個展や展覧会にも来ていただき、九谷焼のファンになってくれます。隠し事なくすべて教えれば、生徒さんもどんどん近づいてきてくれスキルも上がり、生徒さんの知人友人へと九谷焼の魅力が伝え広がっていきます。こうした良い循環で、最終的には工房に来たり石川県を観光していただく方が増え、地元の経済を活性化してくれる。工芸だけでなくすべての面でうまく回ってくれたら良いなと思っています。
せっかく受賞した方たちとご縁ができたので、その方たちといろいろな情報交換をしたいですね。それから、受賞者の方にはいろいろな作り手もいればプロデューサー的な人もいらっしゃるので、それぞれの特徴を活かした作品などを、パッチワークのような感じで組み合わせたオブジェを作ったら面白いと思いました。三井さんの姿勢には品格があり、またMGT賞の目指すところはとても共感するものです。これを象徴するようなオブジェを作って、国内や世界に発信してみたいですね。