写真:岩鋳の急須はそのカラフルな色合いが特徴的。岩清水社長(中央)が持つ急須は、会津の伝統工芸である漆技術とコラボレーションした作品
中央 岩清水 晃さん(第1回 「三井ゴールデン匠賞」「モストポピュラー賞」受賞 ※団体として受賞/株式会社 岩鋳
左 吉田 昌司さん(三井住友建設)
右 三宅 朋子さん(三井住友ファイナンス&リース)
写真:岩鋳の急須はそのカラフルな色合いが特徴的。岩清水社長(中央)が持つ急須は、会津の伝統工芸である漆技術とコラボレーションした作品
中央 岩清水 晃さん(第1回 「三井ゴールデン匠賞」「モストポピュラー賞」受賞 ※団体として受賞/株式会社 岩鋳
左 吉田 昌司さん(三井住友建設)
右 三宅 朋子さん(三井住友ファイナンス&リース)
1965年長崎県生まれ。数多くの伝統技術を有する職人明治35年創業の岩鋳は、大型工場を持ち、本場・盛岡南部鉄器を一貫生産するトップメーカー。伝統的南部鉄器からカラーリングされた急須やキッチンウエアなどまで、年間100万点もの多種多様な製品を製造している。観光施設と工房を兼ねた「岩鋳鉄器館」も運営しており、「意匠をこらした伝統美の形」は全世界から訪れる観光客を魅了している。伝統的な技術を守りながらも、現在の生活様式に順応できるような技術革新を実現している点が評価され受賞。
いつまでも変わることのない美しさ、使い込むほどに味わいを増す独特の質感を備えた、新しいデザインのモダンな鉄器インテリアを手掛ける。ヨーロッパ、アメリカ、アジアなど海外販路の開拓にも積極的で、日本文化のひとつとして世界の人々にも愛されている。
贈賞式で「感謝感激」とコメントさせていただきましたが、その言葉通りの気持ちです。特に「モストポピュラー賞」として、一般の方に選んでいただけたことが尚更嬉しかったですね。贈賞していただいた後、席に座るとじわじわと喜びが湧きあがってきました。「これまで鉄器作りを続けてきて本当に良かった」と。
そもそも三井ゴールデン匠賞に応募したのは、この賞が腕のいい職人が対象ではなく、「革新性」や「アイデア性」、「国際性」などの取り組みを評価するもので、「うちにピッタリじゃないか!」と思ったのがきっかけです。伝統技術を継承し、革新的なアイデアを取り入れている匠を表彰するという賞の理念は、現在低迷している伝統工芸が目指すべき道ではないかと考えています。今回の受賞で、地元の岩手県、そして同業の方々からの反響も大きく、良い影響を与えることができたのではないかと思います。今後、三井ゴールデン匠賞が、伝統工芸に携わる者の目標となる賞として、長く続くことを願っています。
南部鉄器は400年続く伝統工芸です。400年守り続けられるものに革新を起こすのは、なかなか難しいことです。岩鋳は、120年の歴史がありますが、それでも業界では後発。だからこそ、南部鉄器の今後の10年、100年先を見据え、新しい事にチャレンジして革新を起こさなければと考えたのです。
岩鋳は、私の父の代である40年以上前から、海外へ出展するなどして、国際展開への種を蒔いていました。そして25年ほど前に、ある外国の企業から「南部鉄器に色を付けてくれないか」と、依頼を受けたのです。南部鉄器といえば、黒か茶のみ。色を付けることに対し、当初職人たちは「こんな色では売れない」と難色を示しました。しかし私は「お客様の要望があったのだから、まずはチャレンジしてみよう!」と、皆を説得し、有色鉄器の開発に取り組みました。
岩鋳が大切にしていることに、「革新」「チャレンジ」とともに、「現場主義」があります。海外でも、まずは現地に出かけ、土壌を知ることから始めます。そして取引先のニーズを聞きながらデザインしていきます。ですから、色にも地域性があり、欧州のドイツ以北は暗めの色、フランス以南やアメリカは、カラフルな色を開発しています。しかしそれも簡単なことではありません。狙う色が出せるまでには、試行錯誤を重ね3年ほどを要しました。
海外で売られるカラフルな急須などの当社製品を見て購入される日本人の方が増え、日本でも人気が高まりました。今や海外の方は、南部鉄器でも、急須(ポット)でもなく、「IWACHUください」と、お求めくださいます。何よりも嬉しいことです。
南部鉄器は、かつては南部藩の藩主によって育てられ、支えられてきました。三井グループの皆さんには、藩主のように伝統工芸を育て、支えていただきたいです。また世界に広がるグループのネットワークを活かし、海外展開にチャレンジしたくてもその方法がわからない伝統工芸の職人たちに、情報を提供していただく等、海外と日本の伝統工芸の架け橋となっていただくことに期待が高まります。
他方、南部鉄器を継承し、岩鋳をさらに100年続けていくことが、私の夢であり使命です。そのために何をすべきかを常に考え、恐れずに革新、挑戦を続けていきます。
(2016年8月5日インタビュー)