匠を訪ねて

世界に誇るべき日本の伝統文化の発展に寄与し、〈伝統×イノベーション〉を実現する匠を表彰する賞として、三井広報委員会が2015年に創設した「三井ゴールデン匠賞」。
その受賞者を三井グループ各社の社員が訪ね、取り組みや伝統工芸への想いを聞きます。
第3回は、九谷焼の伝統技法・あ赤かえ絵さい細びよ描うの第一人者であり、仏エルメス社の時計文字盤デザインを手掛けるなど 国際的にも活躍の場を広げる福島武山さんにお話を伺いました。

写真:11月に福井県越前市で開催された伝統的工芸品月間国民会議全国大会の会場にて
中央 福島 武山さん(第1回 「三井ゴールデン匠賞」受賞
左 戸沢 由香さん(三越伊勢丹ホールディングス)
右 福山 寛人さん(三機工業)

福島 武山

1944年、石川県生まれ。1963年に石川県立工業高校デザイン科を卒業し、24歳で結婚して能美市佐野町に移住。絵付け職人であった義母の仕事を手伝った縁で赤絵細描の世界に入る。以来、独学で技術を学び50年間赤絵細描一筋に打ち込む。緻密で繊細な極細描写で表現される意匠は他の追随を許さない。1999年第23回全国伝統的工芸品公募展にて第一席グランプリ内閣総理大臣賞を受賞。2005年石川県指定無形文化財 九谷焼技術保存会会員に指定。2008年九谷焼伝統工芸士会会長就任。石川県立九谷焼技術研修所の講師も務める。仏エルメス社より時計文字盤の製作依頼を受けるなど、国際的にも活躍の場を広げる取り組みと実績が評価され受賞。

「赤絵細描」

弁柄べんがらの赤絵具一色で、2㎜幅に7~8本の微細な線をびっしりと書き込み、微妙な濃淡や奥行きまで表現しながら文様を作り上げる。古典的な文様をモダンパターンに応用し新たな表現を実現した作品。

伝統工芸は人に育てられる 支持される作品を

三井ゴールデン匠賞受賞のご感想をお聞かせください。

自分ではまったく思いがけない受賞でした。立派な人ばかりが応募されたのでしょうから、僕には見込みがないかなぁと。受賞が決まったと聞いても信じられず、親戚が記事の切り抜きを送ってくれてようやく実感が湧きました(笑)。今後は「福島でも選ばれるなら、私も挑戦してみよう」と思う職人がたくさん出てくるのではないでしょうか。

福島さんの赤絵細描との出会いとは?また、どのように作品を生み出していらっしゃるのですか。

赤絵細描との出会いは、私の義母が絵付け職人で、その工房のご主人から赤絵を勧められたのがきっかけです。もともと私は高校ではデザイン科を卒業し美術の仕事を志していました。父は金沢で友禅の刺繍をする仕事をしていましたから、身体に「美術系」の血が流れているのでしょうね。
以来50年間、迷いなく赤絵細描一筋にやってきました。今でも創作意欲はまったく衰えず、元気なうちに自分の身体よりも大きい作品を作ってみたいと思っています。
長年描いてきたおかげで、少しは筆を自由に動かせるようになりました。それでもやはりデザインを生み出すときは苦しいものです。新しい閃きを得るために、常にデザインのことを考えています。展示会が迫って来ると、悶えながら歩き回っている。熊と一緒です(笑)。〆切は迫る、 どうしても描かなければならない、それでも納得できるデザインをと悶え苦しむなかで、ふと一線を越えることができる。自分の身体のなかからエキスが出てくるのでしょうか。

福島さんの革新への挑戦についてお聞かせください。

赤絵細描は、恵比寿様や大黒様、山水、花鳥など古典柄を書いていれば、ある程度仕事はあります。しかしご注文をいただき、課題に挑戦することで成長できます。たとえば「〇〇の花と〇〇の模様を合わせた品物を」というオーダーをいただけば、頭の中でしょっちゅうそのデザインを考えて、新しいものが生まれます。
もちろん私自身も挑戦を厭いません。先日は、白磁にすっと竜を一匹だけ描きました。描線の可能な限りの描き込みが価値とされる赤絵で、あえて白地を活かすという作品です。以前は「福島は手抜きをしている」と揶揄されることもあり葛藤もありましたが、今では認められるようになりました。長年やってきて、今だから描けた絵、できた挑戦と言えるかもしれません。
実は、私の娘は爪に九谷の絵柄を施す「九谷ネイル」に挑戦しています(笑)。石川県の知事さんにも「面白い」と言っていただけて、九谷焼もまだまだ新しい革新が考えられると思います。

後進の育成にも注力されていますが、若い人にはどのようなことを伝えていますか。

「職人として食べていってほしい」と思っているので、「お客様に支持されるものを」と伝えています。作品を作っても売れなければ意味がありません。ですから、私は工房へ勉強しに来ている子たちを、どこに出して、いかにお客様との接点を作ってあげるかということをずいぶん考えています。そして、たとえば値段の付け方などの経済観念も教えます。私が持っているものはすべて弟子や研修所の生徒たちに伝えていくつもりです。

三井ゴールデン匠賞への期待や要望などをお聞かせください。

回を重ね受賞者が増えていったら受賞者同士のコラボ作品が生まれるかもしれない。たとえば、同じ第1回の受賞者である伝統技術ディレクターの立川裕大さんのテーブルに赤絵の陶板などがはめ込まれていたら…面白そうですよね。そういうアイデアや提案が結び付く場となれば、私たち職人にとっては新たな目が開かれるチャンスになると思います。
私自身は、今後も新鮮な気持ちで挑戦をし続け、良い作品を残していきたいと強く思っています。

(2016年11月25日インタビュー)