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匠を訪ねて

世界に誇るべき日本の伝統文化の発展に寄与し、〈伝統×イノベーション〉を実現する匠を表彰する賞として、三井広報委員会が2015年に創設した「三井ゴールデン匠賞」。
その受賞者を三井グループ各社の社員が訪ね、取り組みや伝統工芸への想いを聞きます。
第4回は、江戸時代から続く越前和紙の紙問屋杉原商店の代表で、異業種との融合や新技術の開発に取り組む杉原吉直さんにお話を伺いました。

写真:福井県越前市の杉原商店にて。手にしているのは漆和紙を使った書類フォルダー
中央 杉原 吉直さん(第1回 「三井ゴールデン匠賞」受賞
右 清家 尚さん(エームサービス)
左 原田 詩織さん(商船三井)

杉原 吉直

1962年福井県越前市生まれ。86年小津産業(創業350周年の和紙問屋)入社。88年杉原商店入社。93年インクジェットプリンター対応和紙「羽二重紙を開発。2000年「漆和紙」がDESIGN WAVE FUKUI大賞を受賞。2002年IPEC2002に出展し「奨励賞」を受賞。2015年には黒透かしのような「decor washi 凸和紙」を開発。パリ国際展示会「Salon du Meuble de Paris 2004」、フランクフルト・アンビエンテなどの展示会に出展しているほか、海外の各地で、建築家やインテリアデザイナー向けのセミナーを開催している。三井ゴールデン匠賞では、紙問屋の代表として、積極的な異業種との融合と新技術の開発、海外販路拡大などへの取り組みが評価された。

「越前和紙」

国際医療福祉大学三田病院(東京都港区)のロビーを飾る、 越前和紙を使った作品「いのち 咲く」

1500年の歴史を持つ越前和紙と異業種技術との融合によって、新しいジャンルの和紙を創造している。手すき和紙の技法にデジタル技術を組み合わせた「decor washi 凸和紙」や、和紙に漆を塗り越前和紙の軽さ と越前漆器の丈夫さを融合させた「漆和紙(うるわし)」などがその代表例。海外展開や新分野へも積極的に挑戦。2016年にはサザンオールスターズの限定DVD用オリジナル葡萄柄の和紙を作成した。

新しい需要を創造し 産地とともに生きる

まずは三井ゴールデン匠賞受賞のご感想をお聞かせください。

私は紙問屋で、紙すき職人ではなく、職人さんとコミュニケーションをとりながら商品を作り出すのが仕事です。「匠」という言葉からは離れた職種だと思っていたので、受賞には驚きました。「私でいいんですか?」と(笑)。ただ三井ゴールデン匠賞の趣旨を伺って納得するとともに、そこに私を選んでいただけたということは本当に有難いことだと感じています。

越前和紙の産地と特長について教えてください。

紙すきで一番大切なのは水。水によって仕上がる紙の質感はまったく異なってきます。ここ越前は良い水に恵まれ、紙すきの神様が降り立った地です。
現在でも越前には何百人もの紙すき職人がいます。また紙すきの道具である「ス」を作る人、紙を断裁する切り屋さん、賞状などの透かしのマークを作る人など、和紙にまつわるさまざまな専門職人がいて、500〜600人の和紙業の職人がひと所に集まる、全国一の和紙の産地です。ですから、どんな種類の、どんな大きさの和紙でも作ることができる。それが越前和紙の特長であり強みといえるかもしれません。さまざまなご依頼をいただきますが、あらゆる匠がいますので、人間が思い描き、絵にできるものであれば、ほとんどのご依頼には対応することができます。

越前和紙が、これからも長い歴史を築いていくために必要なことは何でしょうか。

伝統工芸では、よく後継者不足の問題がいわれますが、幸い「紙すきをやりたい」と志す人は多くいます。しかし残念ながら需要が少ないというのが現状。ですから、新しいことに挑戦し、需要を創造していかなければなりません。
そのためには、2種類の方法があると考えています。1つ目は、自分たちがやりたい、欲しいと思うものを作るということ。インクジェット対応の和紙やiPadカバーなどは、まさに自分が欲しいものを開発しました。
2つ目は、人との出会いによって新たな気づきを得る方法です。例えば、和紙に漆を塗った「漆和紙うるわし」は、あるデザイナーからの提案で生まれました。 当時は違和感がありましたが、そこからユニークな商品が生まれ、日用雑貨から空間装飾まで広く需要を拡大することに成功しました。人との出会いによって、未知の場所に連れていってもらった代表例です。
また、最近はご依頼の内容が変わってきました。建築家などまったく土俵の違う業界の方から、紙を使いたいと ご依頼をいただくことが増えました。その度に「燃えないようにしなければ」「汚れにくい紙にしよう」と奮闘します。 時代の要請に応えることが、技術革新と需要の拡大へとつながっています。

海外での反響や今後の展開について教えてください。

日用雑貨品では、流通コストとの兼ね合いから拡販については難しさがありますが、高額不動産物件や船の内装など、建築・インテリア業界における需要に期待を寄せ、今後事業を拡大していきたいと考えています。いずれにしても海外においては、厳しい価格競争が待ち受けています。私たちは、本物の技術力に根差したブランドを確立し、差別化を図っていく必要があります。

三井ゴールデン匠賞への期待や要望などをお聞かせください。

三井ゴールデン匠賞は第1回ということで、私たち受賞者が成長することで、賞の意義・価値を体現していかなければと感じています。
三井グループ個社様との協業としては、ぜひ名刺を越前和紙に変更していただければ嬉しいです。
私どもは産地とともにある企業。紙を使っていただける所を少しでも増やして、和紙が売れて、地元の職人さんたちが皆安定した生活を送れるーそんな風に産地が潤うよう、需要を創造していきたいと思います。

(2016年11月25日インタビュー)