匠を訪ねて

世界に誇るべき日本の伝統文化の発展に寄与し、〈伝統×イノベーション〉を実現する匠を表彰する賞として、三井広報委員会が2015年に創設した「三井ゴールデン匠賞」。
その受賞者を三井グループ各社の社員が訪ね、取り組みや伝統工芸への想いを聞きます。
第5回は、第1回三井ゴールデン匠賞グランプリを受賞した株式会社能作を訪問。伝統的な鋳造技術による革新的な商品開発と、海外展開や地域貢献など産業全体の発展に向けた取り組みについて、代表である能作克治さんにお話を伺いました。

写真:2017年4月に完成した新社屋を案内する能作さん
右 能作 克治さん(第1回 「三井ゴールデン匠賞」「グランプリ」受賞 ※団体として受賞/株式会社 能作 代表取締役社長
左 松永 有里さん(三井化学)
中央 石井 真樹子さん(王子ホールディングス)

株式会社能作(富山県高岡市)

1916年創業。鋳造技術を用いた仏具製造から始まり、茶道具、花器を中心に製造し、近年はテーブルウエア、インテリア雑貨、照明器具、建築金物、医療器具なども手掛ける。また、従来の流通に頼らない独自の展示会を開催し、流通改革を推進。これらのノウハウを産業全体の発展のため同業者に公開したり、雇用を増やして若年層への技術の継承に成果を挙げるなど、流通、商品開発、地域貢献など多岐にわたる活動が評価され、三井ゴールデン匠賞第1回グランプリを受賞。2017年4月に完成した新社屋では、工房で鋳物作りの体験ができるほか、観光スポット情報を提供。“産業観光のハブ”となることを目指している。

「高岡銅器」

富山県高岡市に400年以上伝わる伝統的な鋳造技術を受け継ぎながら、革新的な独自商品を手掛ける。「錫」100%の食器の開発を目指し、柔らかく扱いにくいという錫の欠点を、逆転の発想により「曲げて使う器」として開発。錫を用いた医療器具の開発など、新分野に果敢に挑戦。素材特性を最大限に引き出す鋳造方法・加工技術で、鋳物の可能性を広げ続けている。

共に想い、共に創る 日本工芸一丸となり世界へ

第1回三井ゴールデン匠賞受賞から1年が経過し、改めて感じた賞の意義や、その後の変化についてお聞かせください。

技術だけでなく、伝統産業の発展への貢献も評価されるこの賞の意義を改めて感じています。伝統工芸というのは、私たちもそうですが、ものづくりは得意でも売る方は下手(笑)。いかに商品化し、どう売り出していくかが非常に難しいのです。その部分に貢献するディレクターや問屋さんといった方々にも光が当たったことが、非常に嬉しく業界全体の励みになりました。
また、受賞を機に、同じ受賞者である岩鋳さんと、南部鉄器の鉄瓶の蓋を当社が作るなど、新たなお仕事も始まりました。受賞者同士のつながりができ、有難いご縁をいただきました。

2017年3月に「日本工芸産地協会」を設立されました。その目的や将来の展望について教えてください。

日本の工芸というのは、縦割りなんですね。業種が異なればなおさらわからないのが現状です。そこを横のつながりを持ち、皆で日本の工芸をもっと元気にしていくことを目的とし設立しました。現在13社が参加し、技術のコラボレーションやノウハウの共有を図っています。もともと能作は、技術やノウハウを惜しみなくオープンにしてきました。もはや競争の世界は終わり、共に想い、共に創る「きょうそう」で、皆で生き抜いていかなければなりません。ノウハウの共有については、特に海外展開の失敗事例を共有し、日本の伝統工芸として一丸となって海外に打って出ることも考えています。
日本のものづくりは世界一でも、海外へ出ていこうとするといくつかの壁があります。そのひとつが伝え方の壁。日本人はすごい技術・商品を持っているのに、「いいえ、まだまだ」と謙遜します。他方、海外の人は積極的にアピールし、実力以上に見せることができます。プレゼン能力を高め、いかに表現するか―日本の伝統工芸に足りないのはそこだと思います。

医療器具など新分野に果敢に挑戦されています。

私は単純に仕事が好きで、嫌いなのは「できない」「無理」という言葉。「無理です、できません」といったらそこで終わってしまいます。要求を叶えようと努力することで、情報を掴み、新しいことがわかり、いろいろな可能性が生まれてきます。医療器具についても、「よし、今日からやるぞ」と始めた訳でなく、たまたま展示会に来られた方がお医者様で「この素材面白いね」といった一言がきっかけでした。そこから研究を進め、展開が広がったのです。
そういった意味では、自分たちの技術や素材を、きちんと人に見せるというのは大事ですね。300種類以上の自社製品を開発してきましたが、それを見た人から面白い仕事が入ってきて、新分野への展開につながっていきました。

4月完成の新社屋は、“産業観光のハブ”として、地域に貢献する場を目指していますね。

まずは地元の人たちや子どもたちに、富山の素晴らしさを感じてもらいたい。それが地方創生につながると考えます。能作は営業スタッフがいませんが、富山の人たちがうちの商品を県外に持っていって「これ能作という会社が作ったんだよ」と伝えてくれます。非常に有難いことです。代わりにうちは地域のために貢献していきたい。地域に貢献しない会社は全国展開しても成功しませんし、日本に貢献しない会社は世界で成功することはできないと考えています。

第2回三井ゴールデン匠賞の募集が今秋から始まります。同賞への期待をお聞かせください。

能作も団体として受賞しましたが、職人やコーディネートする人を含むチームや団体での応募や、まだ実績はないけれど革新に挑み努力している人などの応募が増えれば、間口が広がりますね。また、受賞者だけでなく、出品者同士が横につながる場となれば、そこから新しいものが生まれるかもしれません。私もまたチャレンジしたいですし、賞のますますの発展を期待しています。

(2017年5月9日インタビュー)