一枚の銅板を鎚で打ち縮めながら器状に整形する「鎚起(ついき)銅器」。玉川堂は1816年の創業以来、この技術を継承する老舗だ。
左 玉川 基行さん(第2回「三井ゴールデン匠賞」「モストポピュラー賞」受賞 ※団体として受賞/株式会社 玉川堂 代表取締役 七代目
中央 早川 聡さん(エームサービス)
右 眞鍋 耕次さん(三井住友建設)
一枚の銅板を鎚で打ち縮めながら器状に整形する「鎚起(ついき)銅器」。玉川堂は1816年の創業以来、この技術を継承する老舗だ。
左 玉川 基行さん(第2回「三井ゴールデン匠賞」「モストポピュラー賞」受賞 ※団体として受賞/株式会社 玉川堂 代表取締役 七代目
中央 早川 聡さん(エームサービス)
右 眞鍋 耕次さん(三井住友建設)
1970年、新潟県燕市出身。1995年に玉川堂入社。 2003年に玉川堂代表取締役社長・玉川堂7代目就任以降、2003年よりフランクフルト・パリをはじめ、海外見本市に毎年出展。海外販路開拓に努め、世界主要都市にて玉川堂製品を販売し、ルイ・ヴィトングループのシャンパン「KRUG」など、世界ブランドとのコラボ事業も実現させる。 2014年8月、東京青山に直営店第一号の玉川堂青山店を開業。2017年には直営2号店である銀座店をGINZA SIX内にオープンした。
銅器を乗せる道具「鳥口(とりぐち)」や金鎚・木槌にはいろいろな形状のものがあり、それぞれ数百種類もある。
工場には、大勢の職人が奏でるカンカンカンと小気味のよい鎚音が響きわたる。
6代目の実弟、玉川宣夫さんは木目金(もくめがね)の第一人者で紫綬褒章を受賞した人間国宝
玉川堂が培ってきた鎚起銅器の技術、燕三条が誇る鋳物の伝統、そして高度な磨きの技術の融合によって生まれた、燕三条6社のコラボレーションによる、月をモチーフにしたワインクーラー。時には花器として、またシャンパンクーラーやインテリアオブジェとして、実用的でありながらアートピースとしても活用できる。
伝統工芸の発展には、技術だけでなく経営も大切で、そこも評価基準にした「三井ゴールデン匠賞」をつくってくださったことにとても感謝していますし、素晴らしい賞をいただけたことは光栄です。また「モストポピュラー賞」という、インターネットでの一般投票で選ばれる賞をいただけたということは、玉川堂やその製品に対する人気の高まりを再認識できる機会にもなり、大変嬉しく思っております。受賞の反響も大きく、いろいろな方からお祝いの言葉をいただきました。その数の多さや反応の大きさに「三井さんの効果ってすごい」と驚きました。
私の父の頃は問屋を経由して販売を行っていましたが、このやり方ではお客様の声が全く聞こえませんでした。そこで私が入社してすぐ、問屋をすべて外しました。問屋を外すことは思い切った決断でしたが、お客様の声が聞こえないことは最大の欠点だと思っていたので、問屋を外し、百貨店にアポなしで売り込みに行って実演販売をしたんです。
そこでお客様のさまざまな声を聞くことができ、ビールカップなどの新しい製品が生まれました。また、お客様と直接つながる形にしたことで、納得して使っていただくことができ、紹介につながるケースも増えていきました。今後は百貨店もやめて、すべて直営店で販売することを考えています。いま職人は21名いますが、作れる製品の数には限りがありますから、製品を通じたつながりを大切にしたいのです。
実演販売には職人を連れて行くのですが、その理由は、職人にお客様と会話してほしいからです。これからの職人は、技術だけでなくコミュニケーション能力も重要。どちらか一方だけではだめで、この2つの要素が職人にとっての両輪だと思います。
近年、玉川堂を訪れる海外の方も増え、以前は年間数十人ほどだったのが、昨年は約400人になりました。そのため英語力も必要で、毎週水曜には英会話教室を開いています。外国人のお客様とのコミュニケーションを通じて世界でも愛される製品づくりにつながるだけでなく、お客様が海外で玉川堂のことを発信してくださることにも期待しています。また木曜日には書道教室、金曜日はデッサン教室も開いています。書道は日本人の心構えや精神を学ぶことができますし、デッサンは絵が上手になるだけでなく、物を見る目が身につくからです。費用はかかりますが、そこは社員教育として必要だと思っています。
単に技術を受け継ぐのが「伝承」、革新を繰り返すのが「伝統」で、現代の「伝統工芸」の業界は「伝承工芸」になっていると思います。実際、職人の年収は約4割が100万円以下だと言われていて、これでは後継者が現れにくいし、「斜陽産業だから息子たちに継がせたくない」となってしまう。つまり、日本の伝統工芸の現状は、モノづくりはすごいけれど、経営が上手くいっていないのです。未来につなげていくためには、経営の部分に革新的に取り組まなければなりません。これが「伝統」です。
私が大切にしている言葉に「変わらないために、変わり続ける」というのがあります。伝統工芸でいえば、「変わらない」ものが技術であり、「変わり続ける」ものが経営や流通です。技術を変わらずに伝えていくためには、経営を変えなければならない。伝統とは革新の連続であり、変わらないために変わり続けるというのが大切です。
また、革新という部分には女性の力も必要だと思っています。現在は21名の職人のうち7名が女性で、女性ならではのアイデアでヒット商品も生まれました。私の父の頃は、職人として女性を採用しませんでしたし、私が女性を入れることにも反対されました。200年やっていると「常識」ができてしまうんです。その「常識」を疑うことが、伝統工芸の経営においてとても大事です。今後は外国の方も積極的に登用したいとも考えています。
まずは、この賞をずっと続けてほしいと思います。さらには、たとえば素晴らしい伝統工芸品を集めたセレクトショップがあって、そこで取り扱ってもらうことが目標や誇りにできるような、そんなシステムがあると伝統工芸がさらに盛んになっていくと思います。また、グループの商業施設や飲食店のテナントなどで、伝統工芸品を積極的に飾ったり使っていただけたら嬉しいですね。