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匠を訪ねて

日本に残る伝統工芸のなかで、伝統的でありつつ革新的で、実用的でありながらアートとしての美しさも備えた製品とそれを生み出す匠を表彰する「三井ゴールデン匠賞」。
今回は、手漉き和紙とフランス伝統のギルディング技法を融合させ、世界にオンリーワンの和紙を開発してインテリア素材へ進出を図るなど、和紙の需要拡大と産地の活性化に取り組む五十崎社中の代表・齋藤宏之さんにお話を伺いました。

古くから書道用半紙や障子紙で知られる大洲(おおず)和紙を、独自の工夫によってデザイン性の高いインテリア素材として提案し、新たな和紙需要の拡大に努めている。

中央 齋藤 宏之さん(第2回「三井ゴールデン匠賞」受賞/株式会社 五十崎社中 代表)
右 藤原 裕之さん(JA 三井リース)
左 髙原 光太郎さん(三井住友トラスト・ホールディングス)

齋藤 宏之

1972年、神奈川県出身。大学卒業後、東京の通信系IT企業へ就職し、システムエンジニアとして10年間、企画・営業として3年間勤務したのち、 2008年、愛媛県内子町五十崎に五十崎社中を起業。内子町は、義父が300年続く造り酒屋を経営するとともに、内子町商工会のメンバーとして伝統産業の保護に尽力していた土地。内閣府クールジャパン官民連携プラットフォーム推進委員に選定。2015年ミラノ国際博覧会クールジャパンデザインギャラリ―出展。2017年ヨウジヤマモト・パリ店舗にて和紙インスタレーション。

①型で糊を塗った和紙に箔を載せる ②ローラーで箔を密着させる ③余分な箔を払う ④型で糊を塗ったところだけ箔が残り、型の紋様が浮かび上がる

 

ギルディングの技法は、紋様のある型を使って和紙に糊をつけ、その上に金属箔を置いてローラーで定着し、刷毛でこすると糊のあるところの金属箔だけが残る仕組み。金属箔には、金色・銀色・銅色と、真鍮を酸性の液体で腐食させた黄混合色、同様に銅を酸化させた赤混合色の5色を使う。酸化色の箔を使うのは珍しく、独特の色合いが表現できる。また糊を置く型はオリジナルのものなので、さまざまな紋様を生み出すことができる

「ギルディング和紙」

ギルディングとはヨーロッパ発生の額縁金箔技法で、金属箔を使い、 紙や木材、布などの上にデザインを施す手法。その第一人者であり、フランス国家遺産企業 CONTEJUGA 社代表のガボー・ウルヴィツキ氏から直接指導を受け、五十崎社中が制作するギルディング和紙は世界でオンリーワンの技法だ。手漉き和紙の持つ繊細で柔らかい素材と、金属箔の硬質な質感という相反する素材が融合した独創的な逸品。

オンリーワンの和紙開発で消滅危機の伝統守る

第2回三井ゴールデン匠賞(以下、MGT賞)を受賞されたご感想をお聞かせください。

私以外の受賞者は業界のトップランナーで、私にとって目標となる方ばかりだったので、ともに賞をいただけたことを、大変光栄に感じています。初めてお会いする方もいらっしゃって、ネットワークを広げる貴重な機会にもなりました。受賞以来、皆さんと親しくさせてもらい、それぞれの取り組みを深く知ることができたり、海外展開など参考になるお話をたくさん聞けたことで、自分がこれから目指すべき方向も見えてきました。同時に、ますます精進しなければいけないと身の引き締まる思いです。

大洲和紙が消滅寸前だったなかでの起業や、独自の和紙が生まれた背景をお聞かせください。

平安時代から作られているといわれる大洲和紙は書道用や障子用で有名でしたが、そのニーズはライフスタイルの変化によって減っています。手漉きで和紙をつくる会社や職人の数も少なく、また職人が高齢化しているため、地元では、大洲和紙は10年後くらいに消滅してしまうのではないかという危機感がありました。そこで、地元の内子町商工会(五十崎支所)が和紙を盛り上げる事業をスタート。2007年には中小企業庁の「JAPANブランド育成支援事業」に選ばれましたが、やり手がいないという状況でした。
その頃、私は東京でIT系の企業に勤めており、そのスキルを活かした起業を考えていましたが、こうした状況について、商工会に携わる義父から聞いて興味を持ち、五十崎社中を立ち上げ、和紙の世界に挑戦したわけです。
商工会では当時、手漉き和紙だけでは特徴づけをすることはなかなか難しいと考えていました。そんな折に出会ったのが、フランスの「ギルディング」という技法の職人、ガボー・ウルヴィツキさんでした。ギルディングは金属箔を使って装飾を施す技術なのですが、彼は日本文化への造詣が深く、「和紙を盛り上げるための商品開発を一緒にやりませんか」と持ちかけたところ快諾してくれました。その後、「JAPANブランド」の助成金で彼を招聘し、技術指導をお願いしました。ギルディングに関して何もないところからのスタートでしたので、その装置づくりが大変でしたし、ガボーさんはフランス人ですから、言葉の違いも苦労しました。それから、私が田舎暮らしに慣れていなかったのも大変で(笑)。でも私だけでなく、ガボーさんや職人さんたちの苦労のおかげで、ついに大洲の手漉き和紙とギルディングが融合した、世界にオンリーワンの「ギルディング和紙」をつくることができました。
また、私が参画する1年くらい前から地元のメンバーが中心となり編み出したのが、和紙をこよって糸にし、それを編み込んだものを入れて漉くとできる網目状の「こより和紙」です。こうして、大洲和紙は「ギルディング和紙」と「こより和紙」という2つの特徴によって商品化していきました。
私は全くの異業種、別の土地から伝統工芸の世界に飛び込みましたが、当初は「都会の子が遊び半分で来たんだろう」という雰囲気でした。しかし数年後には「こいつ本気だな」と理解され、今では何かと協力してくださいます。サラリーマンで体得した人付き合いの配慮なども環境に溶け込む上で役立ちました。異業種で培ったスキルを伝統工芸に活かすというのが、私の課題のひとつだと思っています。

海外進出に向けた取り組みについて教えてください。

大洲和紙の海外展開としては、パリで行われるインテリア向けの国際展示会「メゾン・エ・オブジェ」に出展しています。パリに書道用の半紙を持っていっても、それを使う文化がありませんから、海外に出すのであれば、その国の生活様式に合わせた形にすることが重要です。展覧会では、ギルディング和紙などを壁紙や装飾用素材として展示しています。一つひとつ手づくりで、天然素材がメインであり、かつ日本の伝統技術が使われ、さらにヨーロッパの金箔の技法との融合というキャッチーな要素が重なっているので、現地の方たちに興味を持っていただけていて、とても良い流れを感じています。
ですが人気があるから買っていただけるとはいかないですし、「どこに行けば手に入る?」と聞かれても、まだ海外に取扱店などがないので、このあたりをどうしていくかが、これからの課題ですね。

三井グループに期待することがあれば、お聞かせください。

我々が海外展開をしようと思っても、和紙の場合は、商社を介して取引するほどの高額商品でもありません。かといって我々だけでは現地の情報を得るのは大変で、単独で攻めるのはとても難しい。だから、世界の情報に精通した会社とのお付き合いとか、現地の代理店やエージェントを見つけることが重要なんです。その点で、三井グループの幅広いネットワークを活用させていただけると嬉しいですね。
そして、この「三井ゴールデン匠賞」を今後も続けてほしいです。賞をいただくことで、職人さんたちのモチベーションが上がりますし、我々のような小さな会社が注目される機会が増えるのは本当にありがたいです。今回受賞したことで、メディアから問い合わせや取材の依頼がすごく増えたんですよ。また愛媛県知事をはじめ、今治タオルや砥部焼といった愛媛県の産業の仲間たちもとても喜んでくれました。「これで愛媛を盛り上げるぞ!」という雰囲気になっていて、この追い風を活かして、今後も前進していきたいと思っています。
(2018年7月20日インタビュー)