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匠を訪ねて

日本の伝統を継承しながら未来につながるものづくりに真摯に取り組み、さらに発展させている匠を表彰する「三井ゴールデン匠賞」。
2020年2月に発表された第3回の受賞者5組の中で、一般投票による得票数が最も多い「モストポピュラー賞」を受賞したタヤマスタジオ株式会社の代表・田山貴紘さんにお話を伺いました。

若手職人が全工程に関われる鉄瓶を企画し、伝統技術が継承できる仕組みを創出。さらに現代の生活にもマッチする斬新なデザインの製品を生み出した。

上 田山 貴紘さん(第3回「三井ゴールデン匠賞」モストポピュラー賞 受賞 ※団体として受賞/タヤマスタジオ株式会社 代表)
下 三井ゴールデン匠賞とモストポピュラー賞のトロフィーを手にするタヤマスタジオの皆さん

「あかいりんご」はリンゴをモチーフにした鉄瓶。模様付けのないシンプルな風合いは現代の生活シーンにも合う。36,000円(税別)~という手頃な価格も魅力。

南部鉄器は、装飾を施した鋳型に溶解炉で溶かした鉄を流し込み、錆止めや丁寧な磨きを行い、漆着色等の仕上げをするなど作業工程は100以上に及ぶ。

技術顧問であり田山貴紘氏の父・田山和康氏は天皇陛下献上の鉄瓶も手掛けた職人。南部鉄器伝統工芸士会会長。2018年「現代の名工」として厚生労働大臣から表彰

直営のショップ&カフェ「お茶とてつびん engawa」。鉄瓶の見学や購入だけでなく、カフェでは「使うほどに育ち、白湯の味も変わっていく」と言われる鉄瓶ので沸かした湯で淹れた飲物を楽しめる。住所/盛岡市中ノ橋通1-5-2 唐たけし寫場1階

「明日から誰かに伝えたくなる、岩手人が知っておくべく南部鉄器のこと」として、南部鉄瓶の基礎はもちろん、こだわりや使い方、楽しみ方まで学べる「てつびんの学校」

あかいりんご

国内向けに企画した「kanakeno」シリーズ。模様付けなど難易度の高い技術を必要としないデザインを採用。IH使用可、ツルが可動式のため収納場所を選ばず、従来の製品に比べ軽いなど、現代のライフスタイルに沿う工夫が光る。販路を独自に開拓し若年層にも鉄瓶をPRした。

修行のあり方を現代に合わせ、若手職人を育成

第3回「三井ゴールデン匠賞」、また「モストポピュラー賞」を受賞した感想をお聞かせください。

「三井ゴールデン匠賞」(以下、MGT賞)として、伝統工芸の専門の方々に評価していただけたことはとても嬉しいですし、さらに「モストポピュラー賞」という、社会の方々からの評価もいただくことができ、大変光栄に思います。というのも、我々が活動する中で注力しているのが、伝統工芸をもう一度、社会に戻していきたい、社会との距離を縮めていきたい、ということなんです。その意味でも、両賞を受賞できたのは本当に嬉しいですし、一緒に活動するメンバーたちにも大きな励みになります。

「あかいりんご」を企画した意図や経緯を教えてください。

「あかいりんご」という鉄瓶は、経験が浅い若手職人でも、従来の伝統的な工芸品に遜色ない機能を持たせ、かつ安価で提供できるようにした商品です。「kanakeno」というブランドを立ち上げて3年目に出しました。1~2年目に出した鉄瓶は価格帯で言えば7~10万円台で、一定数の購入や評価はいただいていたものの、伝統工芸をもっと広め、価値に気づいてもらうためには、もっと価格を落として多くの方に使ってもらう必要がある、という課題が見えていました。その一方で、ただ安いものを作るだけでは意味がなく、職人育成という課題の解決とつなげられないかとも考えていました。それが「あかいりんご」のきっかけです。

南部鉄器の作業工程は細かく分けると100以上あり、入門して間もない職人が携われるのは、10もありません。また一人前になるには10年はかかると言われています。しかし、現代においては、労働時間がシビアになり、なおかつ学校を卒業してから職人を目指す人も多く、昔より修行できる時間が限られた状況となっています。そこで、「あかいりんご」では、若手だからといって携われる工程を制限するのではなく、製造における全工程に携われるようにしました。各工程を一人前に習得してから次に進むのではなく、全体感を把握し、実体験として「なぜその工程が必要か」を理解しながら携わる方が、若い世代の志向に合っていると思うからです。また、自分が作ったものが商品となり、お客様の声をいただくことも成長につながります。

市民講座やカフェ併設のショップなど新たな取り組みを次々と行っているのはなぜですか。

伝統工芸と社会との距離を縮めるためにPR手段をいろいろ持ちたい、というのがその理由です。「PR」とは、一方的に情報を発信することではなく、相互関係を作ることが本来の意味だと思います。そこで、例えば市民講座の「てつびんの学校」という知識共有の場を設けたり、店舗の「engawa」ではカフェを併設し、「鉄瓶でお湯を沸かすとお湯が美味しくなる」ということを、実際に飲んで感じてもらう活動をしています。すでに約1万人の方々に体験してもらいました。

また伝統工芸品は、現代の道具と違い、扱い方をある程度知る必要がありますが、失敗を気にせず気軽に使ってもらうため、当社では2回まで無料で修理するアフターサービスを行っています。「てつびんの学校」や「engawa」もそうですが、お客様との接点を多く持っていれば、その声がしっかりと、かつ数多く入ってくる。良い反響は職人のやる気に、悪いことは改良につながります。これは経営的にも重要なことですし、ものづくりの良い環境が整ってきていると実感しています。

今後のビジョンや夢を教えてください。

私たちの伝統文化が、世界的な課題の解決に寄与できないか考えています。例えば「もったいない」という意識が環境問題を考える国際会議で取り上げられたのも、日本の精神性が世界にいい影響を与えている好例だと思います。今日までつながってきた知恵をエッセンスとして取り出して、現代の社会に合った形に磨き込み、社会に落とし込むことを事業としてやっていきたいと思っています。

MGT賞に期待することはありますか。

何より、こうした賞を創設してくださったことに、すごくありがたい気持ちでいっぱいです。私は最近、将棋が好きなのですが、藤井聡太二冠(王位・棋聖)が注目されたことで将棋界が大きく盛り上がっています。伝統工芸もこれと同じで、発展していくためには、キラッと光るものや注目の存在が出てきて、それとともに社会が盛り上がるような雰囲気を創ることが重要だと思います。そういう意味でも、MGT賞が存在する意味はすごく大きいと思いますし、ぜひ長く継続していただきたいです。