平安時代から続く和紙の町で、地場産品の障子紙の生産量が最盛期の1/3に落ち込むなか、産業を持続させるため和紙を活かした新たな生産品に取り組む。
一瀬 美教さん(第3回「三井ゴールデン匠賞」 受賞 ※団体として受賞/株式会社 大直 代表)
右 三井ゴールデン匠賞のトロフィーを手にする一瀬さん
平安時代から続く和紙の町で、地場産品の障子紙の生産量が最盛期の1/3に落ち込むなか、産業を持続させるため和紙を活かした新たな生産品に取り組む。
一瀬 美教さん(第3回「三井ゴールデン匠賞」 受賞 ※団体として受賞/株式会社 大直 代表)
右 三井ゴールデン匠賞のトロフィーを手にする一瀬さん
ナオロンをベースに手作りされる「SIWA」製品は、肌触りが良く、軽くて、柔らかくしなやかな紙質ながら、強度に優れ、さらに水にも強く、破れにくいのも特徴。水洗いもできる
「めでたや」製品も熟練の職人が一つひとつ手作りしている
和紙の魅力を発信している「めでたや 河口湖店」。この他、東京都内に「吉祥寺ロフト店」を展開。自社コンテンツの配信を強化しているウェブサイトhttps://siwa.jpも運営
破れない和紙「ナオロン」にしわを施し、風合いを持たせた「SIWA」。縫製が可能で、バッグ、スリッパ、帽子、ポーチ、名刺ケースなどさまざまな日用品に展開し、国内はもとよりヨーロッパを中心に海外でも人気となっている
日本の伝統的な行事や祭事、季節感や日本の暮らしをテーマに、一つひとつ手作りで生み出される和紙製品ブランド。写真は三猿をモチーフにした張り子
伝統産業や工芸は、どちらかと言えば表舞台の世界ではありませんが、その担い手たちに光を当てる三井ゴールデン匠賞(以下MGT賞)は、私たちにとって非常に大きな励みになるものです。実際、「自分たちがやっていることは社会的に評価されることなのだ」と社内のスタッフたちの自信に繋がっていますし、「だからこそ、さらに磨きをかけていこう」という励みになっています。
山梨県の
それまでは障子紙の事業と、日本の伝統的な行事や祭事をテーマにした和紙製品ブランド「めでたや」を展開していましたが、もっと若い人たちに和紙を日常生活の中で使ってもらいたいと思っていました。社内でいろいろと挑戦をしたのですが、今までは日本の伝統的なものをテーマにしてきたこともあって、なかなか新しいところへ飛躍できない。そこで、プロダクトデザイナーの深澤直人さんに依頼して生み出されたのが、ナオロンをくしゃくしゃにして風合いを出した「SIWA」というブランドでした。我々の常識では、紙における「しわ」は、マイナスだと考えていましたし、商品によっては不良品になります。しかし、そのマイナス点に価値を見出したことに驚くとともに、全く新しい和紙のカテゴリーが生まれたと思っています。
製品化においても新たな色合いや紙の縫製など新しい挑戦ばかりで、深澤さんが求めるものを実現するのはとても大変でした。何度も作ってはやり直すを繰り返して試作を積み重ねたおかげで、いろいろなノウハウができ、今では思ったものを作れるようになりました。
市川三郷町は「紙の町」とも呼ばれ、江戸時代には300件くらい紙漉き屋さんがありました。恐らく規模では日本一でしょう。当時に比べると今は産業としては衰退してきているので、雇用という点で、町全体を支えるのは難しい。こうした状況の中で、私が大切だと思うのは、多くの人に支持をいただけるような会社の存在です。和紙産業に携わりたいという人は数多く、魅力的な会社であれば全国から人が集まってくる。実際、優秀な人たちが関わっていますので、人材の育成や事業の継続という点で地域に貢献できているのかなと思います。「SIWA」や「めでたや」の製品は手作りなので、それを請け負ってくれる内職さんや、県内や都内にある店舗の従業員たちを含めると、雇用者は100人以上になりますから、裾野は結構広いかもしれません。また、継続的な販売においては和紙や製品のファンをつくることも大切なので、店舗展開やネット販売に加え、店舗でのワークショップや講習会を開いて和紙の魅力を定期的に伝えるようにしています。
いま「両利きの経営」とも言われますが、その言葉の通り、伝統文化を継承し深化させていくことと、企業として継続していくことのどちらも大事です。一方だけに偏ることなく、両立していくことが我々のテーマだと考えています。実は社名の「大直」にはそうした意味合いもありまして、中国の老子の言葉に「大直は屈するがごとし」(大直若屈)というのがあり、「短期的に見ると曲がっているように見えるけれど長期的に見ると真っすぐ進んでいる」という意味だそうです。これを経営の理念にもしていますが、企業として存続しつつ、伝統を磨きながら次世代に渡していくことをブレずに続けて行こうと思っています。