匠を訪ねて

伝統工芸の継承と、未来につながる取り組みを行う匠を表彰する「三井ゴールデン匠賞」。
今回は、奈良時代から続く「伊賀くみひも」の職人であり、組紐を作る台の中でも難しさと手間の多さから廃れかけていた唐組台による制作技術を独学で習得し、さらに独自の工夫や追求を続ける松山好成さんの工房を訪ね、お話をお聞きしました。

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組紐制作に使う組み台が多種ある中で、非常に手間がかかるだけでなく技術の難しさから廃れかけている唐組台による組紐制作技術を独学で習得。さらに幅広い表現を追求、工夫している

右:松山 好成さん(第4回「三井ゴールデン匠賞」 受賞)
左:JA三井リース 経営管理部 広報IR室 上重 貴靖さん

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松山さんは唐組台も手作りし、座って楽に作業ができるよう高さや強度を工夫している。作業中は集中が切れるため夫人すらも声をかけないという。長年にわたり指先で糸を引くことを繰り返しているので、疲労で痙攣するだけでなく、腱鞘炎による手術も経験。指先の汗で糸の色が変わることもあり、唐組台での組紐作りは、ひと目ひと目、力と慎重さが求められる作業の連続だ。また表現の自由度が高いので、デザイン画をいくつも描きながら模様の柄や色、バランスを検討している。糸は同じ色でも濃淡を含め幅広いバリエーションをストック。これらは松山さんが自ら草木染めしたもの

趣のある松山さんの工房の外観

くみひも(唐組)
万華鏡

8cm×4cmの厚紙を布で包み5本の糸を巻き一束とし、112個の糸巻を使って制作。作品は中心に大菱、両側に小菱4個、両耳に無地を、染色は草木染して組み上げた。手だけで糸を締め、幅を揃え、表面を平らに組み上げることは熟練を要する技術で、制作日数は1日6~8時間かけ約140日を要した

伝統工芸でありつつ、作家としての独自表現を

三井ゴールデン匠賞(以下MGT賞)を受賞された感想をお聞かせください。

伝統を大切にしつつ、未来に向けて発展させるというコンセプトは、まさにその通りで、伝統工芸士が目標にすべきことだと思います。そうした取り組みを表彰してくれるのは、私たち職人にとっては大変嬉しいことで、受賞できて非常に喜んでおります。

受賞のことが全国紙に掲載されたのですが、いろいろな方から贈り物やお祝いの言葉をいただきました。中でも50年以上会っていなかった中学校時代の同級生がわざわざ訪ねて来てくれたことは一番の驚きで、嬉しかったですね。さらには、人間国宝の方や染織作家の方からのお祝いの品々もいただきました。また、MGT賞の後に、日本伝統工芸展で日本工芸会会長賞の受賞、瑞宝単光章の受章が続きました。MGT賞の受賞があったから、こんな弾むような調子で受賞を重ねられたのだと思っています。

組紐を作るには、丸台や角台、高台や綾竹台などいろいろありますが、唐組台の魅力は何ですか。

他ではできない緻密で繊細な表現力が魅力です。例えば丸台では、紐の幅の中に最大で2つの菱形しか描けませんが、唐組台ならいくつも並べられます。ただ、丸台の場合は糸の端におもりが付いているので、安定したテンションで早く手間なく作ることができる。一方、唐組台は、ひと目組むごとに手で引っ張って糸目を詰めます。また、ひとまとまりの柄が組めたところで、きれいな形になるように引っ張りながら糸目を調整します。1cmくらいを作る中で、糸を手で引っ張る回数は2000~3000回はあります。その繰り返しなので、1日にせいぜい1~1.5cmしか作れません。製品として160cmは必要ですから、完成までに100日以上かかります。MGT賞の作品は半年近くかかっているんですよ。その手間を加味しても、他ではできない表現力の豊かさが唐組台の魅力です。

松山様が伊賀くみひもや唐組台に取り組んだ背景を教えてください。

もともと商社に勤めていて、25歳でこの道に入りました。父の代で創業したのですが、三越さんと取引できるようになったことがきっかけで、家業を手伝うように言われたんです。働き始めると、職人の父は何も教えてくれない。だから父を見ながら自分なりに工夫し、試行錯誤してやってきました。今になれば、それが良かったのだと思います。というのも、唐組台での紐の作り方も、誰も知る人がいない中で、自分で勉強して習得できましたからね。

41歳で父を亡くすまでは商売のことばかり考えていました。でも「これからは作家としてお客様の信用を得られる活動に専念したい」と思って公募展に挑戦し、当時は丸台や高台、綾丈台を使いながら模索していました。その中で知ったのが、唐組台の組紐の素晴らしさ。特に、昭和40年代頃の人間国宝で、深見重助という方の作品は本当に素晴らしく、それを見て「一生の仕事にしよう」と心に決めました。私が追求しているのは、細かさの中に繊細さがあり、かつ大胆な作品。なかなかそういうものはできませんが、それだけに本当に面白い。また、今では誰も唐組台で作らなくなってしまったので、私がやらなければとも思っています。

松山様の夢をお聞かせください。

重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定されることを目標にしています。現在77歳ですが、この歳になって、こうした思いを抱きながら前を向いて仕事ができることは本当に幸せです。私はこれまで肺炎、心筋梗塞、大腸がんといろいろ大病をして命を失いかけたこともあるのですが、それでも元気でいられるのは、「もう少し頑張れ」ということでしょう。ですから、私がどれだけの作品を作り出せるのか、常に挑戦を続けます。それによって「こんな良いものを作ってみたい」という人が出てくれたらありがたいですね。そのためにも、これからも唐組台の魅力を発信し続けていきたいと思います。

出典:MITSUI Field vol.58(2023年4月15日発行)

※社名・役職名等は実施時期のものとなります。