大正9年創業、100年以上にわたって伝統技法を用いた日本人形を手がける工房。技術を継承しつつ、時代とともに多様化するライフスタイルに合わせて新しい日本人形を提案している。
左:松崎 光正さん(第4回「三井ゴールデン匠賞」 受賞 ※団体として受賞/株式会社松崎人形 代表)
右:三井住友海上 広報部 本田 里実さん
大正9年創業、100年以上にわたって伝統技法を用いた日本人形を手がける工房。技術を継承しつつ、時代とともに多様化するライフスタイルに合わせて新しい日本人形を提案している。
左:松崎 光正さん(第4回「三井ゴールデン匠賞」 受賞 ※団体として受賞/株式会社松崎人形 代表)
右:三井住友海上 広報部 本田 里実さん
❶工房の作業風景。20代の若い女性から、松崎さんが子どもの頃から働く80代の職人もいる。❷木目込人形は、桐のおが屑と糊を混ぜた桐塑という粘土を固めたボディに溝を掘り、金襴や友禅などの布地をヘラで入れ込んで(木目込んで)着せ付けた人形。別々に作った頭(かしら)と合わせて完成。❸使用される布はほとんどが西陣織で、時代ごとにトレンドがあり、最近は淡い色を使うことが多いという。❹鳥や動物をモチーフにした新しい形の作品。そこには古来の顔料である胡粉を塗り重ね、目は箔押し、ツノは金泥を塗って鯛の歯で磨く能面の技法、西陣織の布の他に、透けるほど薄い天具帖という和紙に、雲母(きら)という浮世絵の顔料を混ぜて貼り重ねるなど、日本の伝統技術が注ぎ込まれている
新たな作品づくりは、本業の作業を終えたあと工房に残ったり、帰宅後に自分の仕事場で行っている。「実は、こういう時間がいちばん楽しいんです」と松崎さん

木目込みの技法と新しい3Dの技術を使い昆虫のオブジェを創作した。非常に細かい作業が必要で、手仕事で制作するのは不可能なため3Dプリンターを使用し実現。胴脚部はロストワックスによる真鍮の鋳造で作り、それ以外は直接出力し木目込みで仕上げ、裂地の美しさとフォルムの面白さを表現した
実は、三井ゴールデン・グラブ賞は知っていたんですが、伝統工芸に対するMGT賞は、知人からの「応募してみたら?」という勧めで知りました。工芸品といえば「使う」ものですが、人形は飾っておくものなので、僕としては、人形づくりというのは伝統工芸とは違う世界だと思っていたんです。ですから受賞したと知って驚きましたし、とても励みになりました。同じように手でものづくりをしている知人たちからも「励みになった」と言われました。ですから、MGT賞がもっと認知されていくと良いなと思います。
いろいろあります。市場に関しては、核家族化が進んでいること。昔は祖父母と一緒に暮らす中でしきたりが伝わっていきましたが、今はそうではない。ですから、伝統工芸品を使う習慣はどうしても薄れてしまいます。でも、他の伝統工芸と比べると人形は恵まれています。お節句という風習と人形を飾る習慣は残っていますからね。ただ、昔は家に節句人形がなかったので親が子どもに買い与えていましたが、その子たちが親になり、家にはすでに節句人形があるので、お子様に新たなものを買い与える需要が生まれにくくなっています。
また、人形づくりは裾野の広い仕事で、うちだけでは作れないのですが、近年、布を織るところ、金物を作るところ、小道具を作るところ、人形の髪の毛であるスガ糸を作るところがどんどん減っています。
市場も我々の業界にも時代的な変化が起きています。弊社の存続はもちろん、材料や道具の作り手を守るためにも、生産量を増やしていかなければなりません。また、生産量を増やす中で、若い作り手の育成もできますし、新たな素材や道具の開発も可能です。そうした想いから、現代のライフスタイルに合った、今までにない新たな人形を、それもうちでしか作れない人形を開発し、提案しようと思いました。
これまでは文字通り「人」の形の人形を作って来ましたが、海外のデザイナーと話す中で、人以外のものも面白いと思って取り組んでいるのが、動物や鳥、昆虫なんです。ここにあるサイの人形も、形の新しさやモチーフの珍しさから大きな評判をいただいていますが、実は昔の技法を多く使っているんです。これを作れれば、人形の技術はひととおりマスターできる、みたいな感じです。こちらから営業活動等はしていないのですが、この作品が知られることで、ネットや口コミを通じて、オリジナルのものを頼みたいというお問い合わせもあちこちからいただいています。
うちの職人さんそれぞれが自分のオリジナルを作れたり、松崎人形は雛人形だけでなく、面白いものを作る工房だよと認めてもらえると良いなと思っています。良い人形は、仕上がった時に何かを訴えてきます。だから言葉を持つように作っていきますし、それを感じてもらえると思っています。他の工芸の場合、技術的に拙かったらダメですけど、人形の場合はそれでも構わない。例えば、子どもの作った人形や絵と同じかもしれませんね。若い職人に対しても、完璧でなくても良いところがあれば、それを伸ばしてあげたいと心がけています。良い職人さんが増え、良い人形が増え、日本の人形の文化がより広がってくれたら良いなと思っています。
出典:MITSUI Field vol.59(2023年7月15日発行)
※社名・役職名等は実施時期のものとなります。