後継者不足で絶えようとしている千鳥うちわと、並外れた集中力を持ち、パターン化した職人的作業が得意な障がい者をマッチングさせた、伝統と福祉の連携(伝福連携)を実践している。
中央:羽塚 順子さん(第4回「三井ゴールデン匠賞」 奨励賞受賞)
後継者不足で絶えようとしている千鳥うちわと、並外れた集中力を持ち、パターン化した職人的作業が得意な障がい者をマッチングさせた、伝統と福祉の連携(伝福連携)を実践している。
中央:羽塚 順子さん(第4回「三井ゴールデン匠賞」 奨励賞受賞)
千鳥うちわは、「和紙」「竹骨」「柄(木工の持ち手)」の3つのパーツに分けて、各作業を得意とする関東近郊の障がい者施設が担当。和紙原料となる楮(こうぞ)の木を剥いだり、新月の晩を選んで真竹(まだけ)を伐採するなど、資材調達から制作までを分業して進め、出来上がった3つのパーツを一枚の作品に仕上げている。各施設では、職人と呼べるレベルの若者を育てる一方で、本人たちのやる気を尊重し、手仕事や見学に来た方とのコミュニケーションを楽しんでもらうなど、安心できる居場所としての役割も担っている。毎回の作業を心待ちにして、笑顔で通ってくる人たちもいる
左下/海外でも活躍するイタリア在住の日本画家、奥村祥子氏とのコラボレーション作品。千鳥うちわをキャンバスにした美しく繊細な仕上がり
千鳥うちわ一筋60年以上の職人から技を学び、楮からの和紙漉き、真竹の極細加工と竹骨貼り、杉材切り出し加工、持ち手磨きと、それぞれ資材調達から仕上げまで障がいのある若者の手仕事で行った。磨き込んで丸みのある持ち手、光を透かした美しさが際立つようリデザイン
素晴らしい賞をいただき、本当にありがとうございます。実は当初、周囲の方々は障がい者対象の賞を受賞したと思ったようで、この賞の内容を知ると「一流の伝統工芸職人さんばかり!」と驚いていました。受賞のおかげで、活動や作品の信頼度がとても大きくなったことも、ありがたく思っています。MGT賞は共同代表の藤田昂平君が見つけて「技術や作品のレベルより、次世代に繋ぐ取り組みに着目した賞」という点に可能性を感じたからです。私たちにも応募資格があるのがうれしくて、2人で目を輝かせて応募したのを覚えています。でも、やっぱり門外漢ではと不安でしたが、説明会に参加すると、取り組みの部分を大事にされていることが改めてわかり、本当に素晴らしい賞だと感じました。
私が初めて千鳥うちわを見たとき、その美しさに惹かれるとともに、「これを作る作業は、きっと自閉症の人たちに向いている!」と確信しました。千鳥うちわは、極細に加工した竹骨を一本ずつ規則正しく並べていくのですが、このような作業は、アスペルガー症候群や自閉症と呼ばれる特性を持つ方々が好むものです。繊細な繰り返しの作業が得意で、全体が美しくきちんと収まることが好き。さらに圧倒的な集中力と強いこだわりを発揮するというのは、障がいというよりも特性です。もしかしたら昔の伝統工芸の職人さんにも多かったかもしれません。そんな職人的才能とも言える特性が活かされないのはもったいない。そう思う中で出会ったのが、千鳥うちわでした。
そこで、関東で一人だった千鳥うちわ職人である加藤照邦さんにお会いして、後継として指導をお願いしたのですが、最初は門前払いのように断られました。年々売り上げが下がり、食べていけないから、若い人に継いでもらっても申し訳ないと考えておいでのようでした。また、技術を受け継ぐのが障がい者だと聞いて、イメージが湧かなかったのだと思います。でも、彼らの職人的な仕事ぶりを見てもらうと、とても感動して、むしろ積極的に力になろうとおっしゃってくださいました。
以前、障がい者施設を見学して回る中で、刺し子のように信じられないほどの美しい針仕事で雑巾を縫う方がいたのですが、1日が終わると縫った糸をすべて抜いていました。施設としては、雑巾を縫っていれば大人しく過ごしてもらえるし、雑巾ばかりたくさん売れるわけではないので、最後にほどいてもらっていたわけですが、私はこの光景を目の当たりにして本当に胸が痛くなりました。施設の職員は施設に通っている方に一日を平穏に過ごしてもらえればいいですし、商品開発や営業は目的ではないので、日々、淡々とこの作業を繰り返してもらっている。でも、これほど長けた才能を持ちながら、障がいで自分の意思を伝えらないために、そのまま一生を送り続けるのは、あまりに理不尽だと思ったんです。障がい者の方たちの才能が職人技に活かせることを示せれば、施設や職員も気付いてくれるだろうし、国や行政も伝統工芸と福祉をつなげるような動きをしてくれるようになるのではないか。それがこの活動の原点です。千鳥うちわがモデルケースとして広まることで、各地で同様の動きが始まってくれたらと願っています。
おかげさまで、世界的にも高い評価をいただいています。最初は、ミラノで個展を開催している画家の奥村祥子さんからご連絡をいただき、その方の個展でコラボ作品を展示していただいたところ、大変好評でした。またパリで活躍している日仏2人組のクリエーションユニット、バルボステさんからは展示販売だけでなく、定期的に注文をいただいています。これからも海外でもっと羽ばたいてほしいと思っています。
何かコラボレーションのような企画ができましたら嬉しく思います。また、商業施設やホテルに置いていただいたり、ほかの受賞者の方とともにトークショーを開いていただいたりと、作品や活動を皆さんに知っていただく機会をつくっていただけたら大変ありがたいです。
出典:MITSUI Field vol.61(2024年1月15日発行)
※社名・役職名等は実施時期のものとなります。