第5回「三井ゴールデン匠賞」受賞者一覧(敬称略・50音順)

第5回ゴールデン匠賞
第5回三井ゴールデン匠賞

池田いけだ 晃将てるまさ

蒔絵まきえ螺鈿らでん/石川県

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第5回三井ゴールデン匠賞 オーディエンス賞

エゴノキプロジェクト実行委員会

代表:長屋ながや 一男かずお
※団体として応募

岐阜和傘ぎふわがさ/岐阜県

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第5回三井ゴールデン匠賞

彦十蒔絵ひこじゅうまきえ

代表:若宮わかみや 隆志たかし
※団体として応募

輪島わじま変塗かわりぬり/石川県

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第5回三井ゴールデン匠賞

久恒ひさつね 俊治としはる

加賀友禅かがゆうぜん/石川県

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第5回三井ゴールデン匠賞

別府⽵製品協同組合べっぷたけせいひんきょうどうくみあい

代表:岩尾いわお 一郎いちろう
※団体として応募

別府⽵細⼯べっぷたけざいく/⼤分県

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審査員特別賞
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作品

青森県

木村きむら 正人まさと詳細はこちら

津軽つがるぬり

https://kimura-u.jimdofree.com/

応募タイトル

受け継がれてきた伝統と新たな可能性の探求

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作品

富山県

東中江和紙加工生産組合ひがしなかえわしかこうせいさんくみあい詳細はこちら

代表:宮本みやもと 友信とものぶ ※団体として応募越中和紙えっちゅうわし

http://www.yukyushi.org/

応募タイトル

千年の歳月に耐える、こうぞ100%の悠久紙

奨励賞
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作品

東京都

東京水引とうきょうみずひき詳細はこちら

代表:中村なかむら 江美えみ ※団体として応募水引細工みずひきざいく

https://tokyomizuhiki.com/

応募タイトル

世界と時代を結ぶ:東京水引が切り拓く新たな可能性

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作品

石川県

針谷はりや 絹代きぬよ詳細はこちら

山中漆器やまなかしっき

http://urushiarthariya.com

応募タイトル

蒔絵アクセサリーの誕生 家族と共に歩む道

第5回三井ゴールデン匠賞 
受賞者詳細

池田いけだ 晃将てるまさ 蒔絵まきえ螺鈿らでん/石川県

応募タイトル

現代における装飾工芸品の制作

https://www.terumasa-ikeda.com

1987年千葉県出身。2016年金沢美術工芸大学大学院修士課程 修了。2019年金沢卯辰山工芸工房修了。現在、金沢市内に工房を構える。2023年ポケモン×工芸展 美とわざの大発見(国立工芸館)、超絶技巧、未来へ! 明治工芸とそのDNA(三井記念美術館)他に出品。

作家画像
作品
受賞者
コメント

この度はこのような賞を頂き、大変光栄に思っております。私は首都圏で育ち、金沢に住んでいる新参者で、伝統的と呼べるか疑わしい作風かもしれません。それでも、このように賞をいただけたことがうれしく、大きな励みとなっています。

効率主義の社会の中で「手で作り、時間をかける」ということに、一体何の意味があるのか、この先何の役割を果たしていけるのか、常にこれからも考えていきたいと思います。そしてできれば、海を跨いでそれを伝えられるよう努力してまいります。

私はひとりでやっているわけではなく、若い仲間たちとともに、会社・チームとしてやっています。その皆に、そして公私にわたり支えてくれる妻に、この感謝を伝えたいと思います。

講評
伝統的な螺鈿技法を守りながらも、レーザー機器など先端技術を取り入れることで、人の手と刃物ではできない極小のパーツを実現。新しい表現の追求に取り組んでいる。伝統的な材料や技法を尊重しながら現代テクノロジーを程よいさじ加減で取り入れ、現代人の嗜好にアジャストする作品を生み出す制作のあり方、これからの時代だからこその若手の育成、産地全体としての新しい指針、成長への取り組みが、多くの審査員から注目と支持を集めた。
取り組み

金沢美術工芸大学大学院に在籍中、石川県内の企業と共同研究したレーザー機器を使用し貝片をカットすることで、人の手だけでは作り出せなかったデザインの実現を可能にした。最先端の技法を取り入れているが、素材は伝統的なものに即しており、漆などの素材の産地や関連企業の継続的な循環に繋げていくことを目指す。

美術工芸作品の制作が主ではあるが、手間と時間がかかり制作スピードが限られるため、それらと並行して織物メーカーとのコラボレーションにより螺鈿帯を開発したり、文具製造企業と共同で螺鈿文具の製造に取り組むことで、より幅広く螺鈿や漆芸に興味を持ってもらう機会を増やす努力をしている。

作品紹介

雷龍回廊図飾箱らいりゅうかいろうずかざりばこ

情報や電気信号など、目に見えないけれども時代を映しているものを表現。
従来の螺鈿技法と併せてレーザー機器などで貝片をカットすることで緻密なパーツを作り、それらをひとつずつ手作業で配置して加飾を行っている。

第5回三井ゴールデン匠賞 オーディエンス賞

エゴノキプロジェクト実行委員会 代表:長屋ながや 一男かずお ※団体として応募 岐阜和傘ぎふわがさ/岐阜県

応募タイトル

全国から職人や関係者が集い、森づくりから取り組む和傘の維持継承

http://egonoki-project.com/

和傘部品の材料・エゴノキを収穫する人が亡くなったことをきっかけに、和傘職人、森林ボランティア、林業者、専門学校の教員や学生、和傘販売業者、愛好家などが全国から岐阜県美濃市の森に集まり、全国の 1 年分の和傘生産に必要なエゴノキを協力して収穫している。2020 年からは苗を育て、森づくりにも取り組む。

作品
受賞者
コメント

この度は栄誉ある三井ゴールデン匠賞を賜りまして誠に感激しております。エゴノキプロジェクト実行委員会を代表し、厚く御礼申し上げます。

材料を供給していただいた材木屋さんが亡くなり、一時は廃業を考えておりました。

しかし、ただひとり残った傘ロクロの職人である私が仕事を手放したら、日本中の和傘の生産が止まってしまいます。そこで周りの優秀な方々にプロジェクトを立ち上げていただき、今も何とか和傘づくりを続けられています。

和傘を続けるためには大変な時代もありました。周りの人に本当に助けていただき、これまで50年間、ひとりになってから20年近くの間、製造を続けていられます。さらに、この活動の中で後継者が見つかり、修行していただいております。傘ロクロに注目し、光を当てていただき、本当に嬉しく思っています。

和傘が100年先の未来に繋がりますように、一生懸命頑張って仕事を続けていくつもりです。

講評

和傘の材料となるエゴノキの森を多くのボランティアで守り、育てるプロジェクト。「今や、少なくなってしまった和傘産地が作り続けるためには重要な取り組み」(河井隆徳氏)、「材料の未来にまで光をあてるのは大切なこと」(千宗屋氏)、「多くのボランティアや地元小学生も含めた地域での取り組みが素晴らしい」(小林祐子氏)と、プロジェクトの姿勢が多くの審査員の共感を呼んだ。

取り組み

和傘の傘骨をつなぐ部品「傘ロクロ」は、全国で岐阜県の木工所1軒だけで作られている。原材料であるエゴノキを供給してきた林業家が2012年に亡くなり、日本中の和傘生産が途絶えかねない危機に陥った。その状況の中で岐阜県美濃市にエゴノキが密集して育つ森を見つけ出し、岐阜をはじめ全国の和傘職人、森林ボランティア、岐阜県立森林文化アカデミーの教員・学生らが集まり「エゴノキプロジェクト」を始動。和傘愛好家、老舗和傘店、歌舞伎の小道具会社などの関係者も加わる。一つの工芸の維持継承のために川上から川下までの関係者がボランティアで結集する、他に類をみない活動を続けている。

作品紹介

岐阜和傘ぎふわがさ

岐阜の和傘生産は江戸時代初期に始まり、現在も全国の生産量の約6割を占める。「開けば花、閉じれば竹」と謳われ、すっきりした「細物」を強みとする。伝統的な高級傘は傘ロクロや柄が黒く塗られるが、近年では素材本来の美しさを伝えるクリア塗装の製品も人気が高い。

彦十蒔絵ひこじゅうまきえ 代表:若宮わかみや 隆志たかし ※団体として応募 輪島わじま変塗かわりぬり/石川県

応募タイトル

縄文時代から続く漆と平安時代から続く蒔絵意匠と技術を使った日本の美意識を未来に繋げる取り組み

https://hikoju-makie.com/

輪島発祥の20人ほどの漆芸職人集団。日本が誇る数千年の漆芸技術を用いて、伝統的な意匠や文様の継承を考えながら新しい作品を企画し、その都度相応しい職人を組織する形式で制作を行う。代表の若宮隆志は、2014年文化庁文化交流使として欧州、アジア、中東などで漆文化を伝え、日頃は漆の技術研究開発及び啓蒙活動を行い、漆器の市場開拓、海外発表などを積極的に展開している。

作品
受賞者
コメント

今回は素晴らしい賞を受賞することができ、彦十蒔絵では大喜びをしております。

これまで彦十蒔絵で取り組んできた技術の追求、意匠の研究を認められ、さらに将来の目標ができました。

これからも将来の目標に向かって頑張ってまいります所存ですので、ご指導とご鞭撻をよろしくお願い申し上げます。

講評
輪島の変塗において意欲的に活動する「彦十蒔絵」。制作メンバーは、輪島の職人を基本とするが、メンバーは代表の若宮隆志氏より年下で構成され、各職人の性格や個性に合わせて得意とする部分に着目し伸ばす方法を取って育成しながら仕事を依頼する。こうしたプロジェクトチームとしてのあり方、進め方は漆工だけでなく工芸界全体にも良い影響を与えていると審査員たちからの支持を得た。
取り組み

縄文時代から日本人の生活と結びつき、民俗的な道具として使用されてきた漆器。蒔絵意匠は平安時代から続いているが、彦十蒔絵は、現代の感覚やユーモアを漆器・蒔絵作品に取り入れ、先人が残した大切な思いを未来に繋いでいる。実用的な漆器ではなく、日本古来の芸術とは何かに着目し、職人・後継者の育成をしながらプロジェクトチームで制作を行う。テーマに見合う素地、塗り、加飾を想定し、その技術に最も相応しい職人を指名。技術が足りない場合は、技術の研究開発を行う。海外のギャラリーディレクター、美術館キュレーター、有名アーティストともコミュニケーションをとることで、時代のニーズ、文化、経済の動向を捉えてダイレクトに何をどのように作るかの判断ができる。彦十蒔絵は、作り手だけではなく、国内外の販売まで一貫で行う強みを持つ職人集団である。

作品紹介

夜叉ヶ池やしゃがいけ 梵鐘ぼんしょう

泉鏡花の戯曲小説「夜叉ヶ池」をテーマに制作した木彫漆器。梵鐘は蓋物となっており、内部は中川学氏のイラストを蒔絵で表現。梵鐘の内側親部分には半魚人蒔絵、蓋裏は切金と螺鈿宇宙模様を表現した。

久恒ひさつね 俊治としはる 加賀友禅かがゆうぜん/石川県

応募タイトル

草木染め加賀友禅の再興、未来へとつなげる

https://kagayuuzen.jp/

1973年加賀友禅作家・鶴見保次工房に入門し、1987 年独立して『友禅空間 工房久恒』を開設。2002 年第26 回全国伝統的工芸品公募展入選。

友禅染め技法を木や金箔・化繊に応用し、着物だけでなく内装建材・インテリア雑貨・テーブルウェア・ファッション雑貨などを制作する。

作家画像
作品
受賞者
コメント

この度は大変栄誉ある賞を頂きましてありがとうございます。

私は加賀友禅の模様師という仕事をしております。今はなかなか着物を着ていただけない時代で、古着は好評ですが、新品の着物はなかなか売れない時代です。そこで工房で皆と話し合った際に、「原点に戻ってみよう」という話になりました。染めの原点といえば「草木染め」です。元々そう知識はありませんでしたが、本を読み、草木染めを始めました。生地を染めることはできるが、本業である模様をうまく染めることができない、という失敗を続けているときに、大学の先生をご紹介していただきました。その先生と一緒に、口に入れても良いような素材を使った染料を作ろう、と開発が始まりました。そこから、15秒という短時間、常温で、筆で塗っても染まる染料が開発されました。これからも工房の皆と一緒に精進し、この草木染めを広めていきたいと思います。

講評

大学と共同開発した新たな植物染料を用いて友禅染を行った独創性。明治以降、長く続く化学染料による水質汚染の問題を改善するという革新性。新しい染織文化が生まれる可能性が審査員たちからの高い評価を得た。

取り組み

明治時代以降は、堅牢度が安定する化学染料が主流となった友禅染め。しかし、天然染料を用いた美しさを表現するために、山梨県立大学特任教授の増田貴史氏(当時は北陸先端科学技術大学院大学准教授)と共同で、堅牢度の高い植物染料を開発することに成功した。短時間かつ常温でも生地に色を定着できるため、今までの草木染めでは出来なかった加賀友禅染めにおける筆彩色が初めて可能となった。こうした環境面での配慮は、科学技術・イノベーションを用いて社会課題を解決する優れた取り組みを表彰する「STI for SDGs」アワードにおいて令和元年に「染色排水の無害化を切り拓く最先端の草木染め」の取り組みで文部科学大臣賞を受賞。SDGsの観点で高く評価されている。着物業界の低迷、着物離れが加速しているため、2023年より加賀染振興協会の組合員にも培ってきた草木染め加賀友禅の技術を指導。これからの時代に合わせた着物を加賀友禅の業界から盛り上げていくために作品発表を続けている。

作品紹介

兼六園菊桜手描加賀友禅訪問着けんろくえんきくざくらてがきかがゆうぜんほうもんぎ「かすみ」

金沢市の尾山神社に咲く兼六園菊桜の花びらを自ら手摘みして乾かし、染料を作成。先媒染と後媒染液で色味を変え、桜を描いている。兼六園菊桜は江戸時代に京都御所の菊桜が加賀藩に下賜されたことから御所桜とも言う由緒ある桜。京都御所の菊桜は現存しないため大変貴重である。

別府⽵製品協同組合べっぷたけせいひんきょうどうくみあい 代表:岩尾いわお 一郎いちろう ※団体として応募 別府⽵細⼯べっぷたけざいく/⼤分県

応募タイトル

別府竹細工の伝統と技術の首都圏における普及・認知向上とその発信を通じた伝統と革新性への貢献

https://www.beppu-take-kumiai.com/index.htm

1980年、別府竹細工が伝統的工芸品に指定された翌年、行政の支援のもと発足、2009年からは行政の支援を受けず完全独立採算制。別府から伝統技術を伝え残す為に、現役の職人を講師として送り続ける。受講生の中からは20名以上が別府に移住し現地で竹工芸を学ぶ。その内の9割は、独立採算制に移行してからの受講生。

作家画像
作品
受賞者
コメント

このような大変立派な賞を頂きまして、ありがとうございます。

鉄鉢盛籠は、東京教室で2年生になった時に取り組む課題作です。今から60~70年前、別府の竹工芸訓練センターでは、卒業後にこの籠だけを作っていれば食べていける、という時代がありました。

もちろん今は、これだけを作ることで生計が立てられる時代ではありません。しかしながら、2年生でこれを作れる教室をずっと苦労して続けてきた取り組みを評価いただいたと思っております。今回は、竹細工の代表作品として、昔は生活で使われ、さらに技術を覚える上での基準となる存在である鉄鉢盛籠を、あえて出品させていただきました。これからも、別府の竹細工職人の誇りを持ち、飯の食える職人を育てていきたい、また、リーダーとしてそれを牽引していきたいという思いで、今回の賞をありがたくお受けしました。

講評
別府の竹細工の技術を受け継ぎ、早い時期から首都圏でも質の高い教室を開催。地域に縛られず、より広い範囲、年代において竹細工の技術を広めている。その取り組みの成果は作品にも表れており、高級外資ブランドからも新入社員研修の一部を依頼されたり、インドネシア、スイス、フランスなど、海外にも多く作品を出展するのみならず、現地に滞在し技術指導を行うなど、別府竹細工の伝統、芸術性をワールドワイドに浸透させている。
取り組み

1980年に伝統的工芸品産業振興協会が都内で教室を展開する中で、別府竹製品協同組合も参加し、工芸士を継続して派遣。しかし、2009年、教室事業終了に伴って存続の危機に陥る。本拠である別府でも竹細工の伝統の継承と後継者育成が課題となる。首都圏において教室を維持することの重要性を鑑み、組合独自の取り組みとして継続・発展を決定、都内にて独自の教室を継続する。「体験」ではなく、竹を割り剥ぎする材料作りから行い、別府竹細工の技術と工程をひととおり身につけることができる構成とし、担当する工芸士が別府と東京を往復しながら、年20回の教室を開催するとともに、年5回程度、別府から特別講師を派遣。開校以来現在に至るまで、延べ5,000人以上の多様な年代の生徒に別府竹細工の魅力と本場の技術を伝授。さらに、 20名弱の若手から中堅世代が同教室での経験を契機に、別府竹細工のプロの道を志すことを決意。別府に移住しており、後継者育成に大きく貢献している。

作品紹介

鉄鉢盛籠てっぱちもりかご

別府竹細工の代表的な作品である、鉄鉢盛籠。様々な技法が盛り込まれたこの作品の制作を通して、より深く別府竹細工の技術を学ぶことができる。