受賞者パネルディスカッションKOGEI EXPO福井

開催日:2016.11.25
  • 立川裕大さん
  • 福島武山さん
  • モデレータ:「和える」代表取締役
    矢島里佳さん

伝統産業界における「革新性」について

矢島
第1回「三井ゴールデン匠賞」は審査の過程で革新性を一番重要視していました。ということで受賞された皆さまにとっての「革新性」についてお話しいただけますでしょうか。
福島
私が九谷焼の赤絵をやり始めた頃は、描かれるモチーフがほとんど竹林の七賢人や山水で旧態依然としていました。
そこで私は赤絵としては初めて小紋を描き始めまして、それによって光や風といった空気感を表現できないかと長い時間かけて考え続けました。そうしたらある時、自分にとって一番の目標であった日本伝統工芸展に入選しまして、自分がやってきた方向性に少し自信を持つことができました。
また、5年程前にはエルメスの創設者の子孫の方が、私の工房にも立ち寄ってくださり、エルメスの時計の文字盤の絵付けをしてほしいという依頼を受けて2015年に発表することができました。これが自分の中では今までで一番の革新でしたね。
矢島
福島さんが常に考え続け探し求めていたことが結果的には革新につながったのですね。
能作
よく伝統産業を守ると言いますが、守ってきた技術に基づいて新しい技術を開発し、革新を起こしていかないことには伝統産業は消えていくのではと考えています。ですので能作では3年程前から医療器具の製造に取り組み始めました。錫製品には抗菌性があると知り合いの医者から聞きまして、能作には培ってきた錫を曲げる技術があるので、これは医療器具に使えるのではないかと思ったのです。能作にとっては大きな革新でした。
日本の職人の技術は世界一と言ってもいいと思うのですが、それを伝える力が非常に弱いんです。これは今後の課題ですね。ですので少しでも伝えていけるように能作では観光産業にも取り組んでいこうと考えています。まずは地元の人たち、特に子どもたちに能作の工場を見学してもらって、自分たちのふるさとの伝統産業がいかに素晴らしいかということを知ってほしいですね。自分が生まれた地域が素敵だと思えれば、それが地方創生にも繋がっていくのではと考えています。
矢島
お話しを聞いておりますと革新の連続が今の能作の成功につながっているということがよくわかりました。
岩清水
私も能作さんのお考えに全く同意ですね。ただ、革新を起こすには、まずチャレンジが必要でして、私は30年前にカラーの南部鉄瓶を作り始めた時にそれを実感しました。きっかけはフランスのコーヒーメーカーからの依頼だったのですが、職人さんにお願いしても最初は難色を示されたんです。でもせっかく注文をいただいたのですから、やらないわけにはいかない!と思い、まさにチャレンジ精神でとにかくやり始めました。初めはフランスだけで販売していたのですが、そのうちヨーロッパ全体に広がり、ついにはアメリカ大陸にも渡り、ここ最近では日本でも売れるようになりました。
革新を起こすためには、目的を持ってチャレンジして、失敗してもある程度は我慢してやり続けることが大事ですね。
矢島
なるほど、革新はいきなり起こるわけではなくて、挑戦という前段階があるのですね。
杉原
私自身は革新的なことをしている自覚があまりないのですが、革新だけではうまくいかないと思っています。まずはモノづくりの現場を大事にして、そのうえで色々な人との出会いを大切にし、新しいことをやってきました。自分にとって新しいと思えることをやり続けることが自然と和紙の世界にとっての革新につながってきたという感じです。
今でも常に伝統と革新のバランスをとることを心がけています。
矢島
伝統が伝統であるままでは、そのまま生きた化石のようになってしまうのでしょうが、革新があるからこそ新たな伝統が生まれてくるのでしょうね。
立川
私はディレクターですので、その立場から革新について申し上げますと、伝統産業の世界にどのような切り口を入れるかということがすごく大事だと思っていて、で、私はインテリアという切り口を入れました。それによって建築家、インテリアデザイナーやコーディネーターといった多くの人々が伝統産業界と関わることになります。そういった人々を巻き込んで革新を起こすために様々なことを仕掛けていくということが私の立ち位置ですね。より革新的なことをするために最近では「現代アート」という切り口を入れつつあります。
矢島
立川さんは伝統産業界の中では当事者でもありながら、おそらく第三者的な視線も持ち合わせておられるのですね。
皆さんの革新についてのお話はこれからの伝統産業界にとって、すごく貴重な提言でもあったと思います。